[小説]雨の日には君に会いに行く

　君は雨の日が嫌いだった。否、今でも嫌いだろう。

雨と仕事場から逃げるように駆ける君の姿は少し幼い。君は当然のように車に乗り込む。

「お腹減ったな、うん」

　どこか確認作業をするような、自分に言い聞かせるような口調で君は呟く。

仕事が忙しくて食事もままなっていないので、まぁ仕方のないことだろう。

「お腹減った、」

　また呟いて、店長の愚痴を僕に聞かせる。

バイト経験のないことに加えて慣れない仕事がどんなに辛いかを、

それがどんなに忙しいかを話す。忘れているのかいないのか、

何度か同じことを言うこともあるがそこは愛嬌だ。

「コンビニでええか」

　訊くと、君は少し残念そうな顔をする。

「……さみしい、なぁ」

　空腹とデートのどちらを選ぶか悩むように君は言い、

欲張りな君は空腹を優先しつつ僕の家に来たがる。

君の体が軽いことを知っている僕は、君の匂いや味を知っている僕は、

葛藤しながらも忙しい君に休息を与える為に君を家に送り届ける。

その度に切ない気持ちになりながら僕は確かめるようにキスをする。

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